白血病ってどんな病気?(平成26年7月号より)
「白血病ってどんな病気?」ときかれると、みなさん、なんとなく、「血液のがん」と想像がつくのではないでしょうか。
全がん種では11番目くらいに多いがん、実は血液の病気では悪性リンパ腫のほうが多いのですが、なぜか白血病のほうが有名です。渡辺謙さん、本田美奈子さん、アンディ・フグさん、キャスターの大塚範一さんなどといえば、病名がすぐ浮かぶのではないでしょうか。
どうして白血病が印象に残るか考えたことがありますか?私が考えた答えは、「白血病は若い人がなる重い病気としては頻度が高いから」です。白血病は子供のがんの中では一番多いです。そして、20代から40代までの人はなんと病気による死亡原因の1位なのです。ついこの間まで元気であった若い人が突然命にかかわる病気になる。本人も周りの人もこれほどびっくりすることはありません。そのため印象深いのだと思います。
「じゃあいつも自血病に気をつけていないといけないの?」
そういうことはありません。白血病になる人は10万人あたり子供では0.8人、大人では8人程度です。
「白血病を防ぐ方法はありますか?子供に遺伝するのでしょうか?」
これもよくきかれる質問です。「残念ながら成人T細胞白血病以外、予防法ははっきりしていません。また子供にも遣伝しません。」とお答えしています。確かに、ダウン症などの染色体先天異常のある人はある種の白血病が多いです。被ばくされた方は1980年代までは白血病が被ばくされていない人と比べ最大十数倍多く発症しました。被ばく2世の人は被ばくされていない人と白血病の発症頻度は変わらないとされています。しかし、まだ定説ではなく、最近でも白血病の発症頻度が増えたという報告もあります。ただ仮に10倍増えたとしても、被ばくした人1万人あたり8人です。想像するほど多くはなく、過度の心配は必要ないでしょう。ちなみに福島より大きな規模の原発事故であったチェルノブイリ原発事故で、「甲状腺がんは増えたが白血病を含むほかのがんの発症ははっきりとは増えていない」といわれています。
当院における白血病患者数は昨年52人(急性骨髄性白血病31人、急性リンパ性白血病7人、慢性骨髄性白血病8人、慢性リンパ性白血病4人、成人T細胞白血病2人)でした。福山市内はもとより、西は三原や世羅、東は井原や笠岡の方がこられています。症状は、あざができやすくなる、熱がなかなか下がらないといった、症状のあるかたから、健康診断でみつかった症状のない方まで様々です。とこう書くと、「自分もあざができやすいから病院にいってみよう!」と思われる方もおられると思います。まずは先に書いたように白血病の頻度自体が低いので、ほとんどの方は大丈夫ですのでご心配なされないでください。それでも心配な方は、お近くの診療所に行かれてください。いまの日本の医療レベルとアクセスのしやすさはすばらしく、調子が悪ければすぐに血液検査できますし、血液検査で血球数の異常や白血病細胞があった場合、すぐに当院など血液内科のある病院に連絡があるはずです。
診断は骨髄検査で行います。現在は見た目(形態学)だけでなく、細胞表面マーカ一や遣伝子検査等を駆使して20種類くらいある白血病を分類していきます。当院には20年以上血液細胞をみているベテランの技師が在籍しており、2-3日以内にどの種類の白血病かを診断することができます。
治療は主に抗がん剤を用います。以前は化学療法のみでしたが、現在では白血病の原因となる場所に直接薬がはまり込んで効果を発揮する「分子標的療法」や白血病細胞を正常細胞に分化させる「分化誘導療法」、白血病細胞表面に多く出ている突起物に作用する「抗体療法」といわれる治療法が発展しました。特に慢性骨髄性白血病に対する分子標的療法は、飲み薬のみで白血病を治せる一歩手前まで来ています。年々複雑になる治療法を、患者様に納得いただいたうえで、安全に行えるよう、病棟、外来とも抗がん剤に詳しい薬剤師が常駐しています。白血病の中でもっとも多いタイプの急性骨髄性白血病の治療は、主に化学療法で行います。様々な薬を組み合わせて、4、5コース繰り返します。1コースは約1から1か月半、つまり治療期間は6~8か月程度となります。化学療法を行うと血液がん細胞も壊れますが、健康な血液細胞である、白血球、赤血球、血小板も壊されてしまいます。白血球が減れば、免疫力が弱まり感染症、特に敗血症や肺炎になりやすくなります。白血球が長く低下する可能性のある患者様には個室や無菌病棟のクリーンルームに入室していただき、感染症を予防します。当院には、10床の無菌病棟があり、無菌フィルターを通した空気がたえず流れています。
空気のきれいさは花粉症の方も症状が和らぐほどです。赤血球が減れば貧血、血小板が減れば出血のおそれがあります。そのため輸血が必要です。当院には輸血専門の資格を持ったスタッフがおり、安全に輸血を行うことができます。
治療中に治りにくいタイプと診断された場合、骨髄移植など造血幹細胞移植ができるか検討されます。骨髄移植は骨髄の中を空にするほど強力な放射線照射と大量の抗がん剤を用いたのち、他人の造血幹細胞を移植することにより、血を造る力の回復と抗白血病効果を高める治療法です。この治療法を開発したトーマス医師は、ノーベル賞を受賞しておられます。通常の治療が効かない人にとっては頼みの綱の治療法なのです。
当院では昨年、福山地区で初めて骨髄移植を無事行うことができました。今までは県を越えて倉敷市や岡山市に骨髄移植予定患者様を紹介していたので患者様への負担を減らすことができるようになったと自負しております。これらの治療は決して一人の力でできるものではありません。週一回、医師、看護師、薬剤師、血液検査技師、輸血専門スタッフ、理学療法士、歯科衛生士などが集まって患者様を検討させていただくカンファレンスを開いています。
私たちの目標は、「備後地区の患者様は、備後地区内で治療ができること。」です。職種の垣根を越えて、そのための体制づくりを進めていきます。
内科医長 青山一利