皮膚がんについて
「昨日テレビで足の裏のホクロの癌の話をみて、私もホクロがあるのでとんできました。これは癌ですか?」―皮膚科の外来ではこういった言葉を、よく聞きます。
皮膚がんも色々
ではみなさん、皮膚がんの種類をどのくらいご存じですか? 一般的に「癌」という言葉を使うときは、上皮系悪性腫瘍といって、体や内臓の表面を構成する細胞(上皮細胞)からできるものを指し、骨や筋肉などを構成する細胞からできる悪性腫瘍を「肉腫」といいます。また、血液・リンパのがんもあり、最近では悪性腫瘍の事を総じて「がん」と表現することが増えています。皮膚がんは皮膚にできる悪性腫瘍の総称で、「癌」「肉腫」「血液のがん」いずれもあります。
怖い皮膚がん
皮膚がんの中でテレビや新聞でよく取り上げられる怖いがんとして、メラノーマがあります。もともとは欧米の白人の方に多いがんですが、現在日本人全体で年間の新規患者数は1200~1500人と増加傾向です。日本人のメラノーマの特徴として、約半数の方が足底などの手足にできる黒い色をしたタイプ(末端黒子型)です。しかし、中には爪の黒い筋のようなタイプや、赤いしこりのような黒くないメラノーマもあり、視診のみでの診断が難しい腫瘍です。
メラノーマは転移しやすいがんの代表で、全身に転移するとなかなか有効な治療がこれまではありませんでした。最近、日本で開発された新しい薬が承認され、治療の選択肢は増えましたが、まだまだ進行したメラノーマの治療は難しい状況です。そのため他のがんと同様、早期発見・早期治療をするに越したことはありません。
だからといって冒頭の方のように足底に黒いものがあればすぐ病院に! ではなく、まずは大きさを測ってみましょう。また、形や色もよく観察してみてください。メラノーマの早期病変を疑う所見は、思春期以降にできた黒いまたは茶色い7㎜以上の病変です。また、形がいびつで左右対称でない、縁がぎざぎざしている、周りにしみだしがある、濃い色の部分と薄い色の部分があるなどの色調の不整や、一部に盛り上がりがあるのも、要注意です。
ただし、7㎜以上の病変であっても後述しますが、ダーモスコピーという検査機器で観察し、良性のホクロの可能性が高ければ、定期的に様子をみることもできます。7㎜以上の病変で、ダーモスコピーでメラノーマの可能性が高いと診断した場合は、2~3㎜以上の余裕をつけて、なるべく全部の病変を一度に切除し、組織検査を行います。なぜかというと、部分的にとる検査では診断がつきにくいケースが多く、また一部をとることでがん細胞を刺激してしまう可能性が0ではないために、こういった方法が推奨されています。先述の、爪のメラノーマや赤い色のタイプのメラノーマでも、やはり最終的に疑わしい場合は、全部切除して組織検査を行い診断します。
組織検査でメラノーマと診断された後は、他の臓器への転移の有無や、病変の厚み(tumor thickness)、傷の有無をポイントに、病期(病気の進み具合)を判定し、病期に応じて治療法を検討していきます。
よく、「ホクロががん化する事がありますか?」と尋ねられますが、これはなかなかお答えが難しい質問です。十数年前までは、ホクロからがんができるという意見が大多数でしたが、最近ではde novo説といって、ホクロとは関係なく皮膚にあるメラニン細胞ががん化してメラノーマができるという意見もあります。
ただし、今後の研究によってはまた変わってくる可能性があります。
メラノーマはその発症原因が特定されていないため、完全に予防することも難しいのですが、最も発生率が高いのが紫外線の強い地域に住む白色人種の方であることより、やはり紫外線が関係している可能性
があります。また、日本人で多い足底や爪などは、慢性的に刺激を受けることが影響しているかもしれません。メラノーマの予防だけに限りませんが、皮膚がんの予防としては、過度な日焼けをさけて、皮膚病変を針でつついたり、いじって取ろうとして、いたずらに刺激しないようにしましょう。
ダーモスコピーにより診断技術は向上していますが、これだけで100%の診断とはならず、最終的には組織検査も併せることで、診断できます。まだ当院ではダーモスコピーは導入されていませんが、今後導入予定です。
皮膚科部長 内藤洋子