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むくみについて

1. むくみの症状について

「足が腫れて、靴が履けなくなった」「まぶたが重く、腫れぼったい」「手がぱんぱんに腫れて物が握りにくい」「指輪がきつくなって取れない」「そんなに食べていないのに急に体重が増えて靴下の跡が残っている」…こういった症状で外来を受診される方がおられます。 その場合に、私は、まずは足を診察させていただきます。足の頸骨前面(すねの部分の堅い骨の部分)を押さえて指のあと(圧痕)が残るかどうかを見ます。指で押さえたあとが残る場合は、「浮腫(むくみ)」です。

2. むくみとはどういった状態なのでしょうか?

その前に心臓と動脈、静脈の関係を簡単にお話しします。 心臓というポンプから大動脈という大きな管を通って何回も枝分かれをしながら小さな管となり、全身の細胞に血液(血球成分や水分や栄養)を届けるパイプラインのようなものが動脈と言えます。また、細胞からでた余分な水分や老廃物は、回収用の小さなパイプラインすなわち静脈に取り込まれ、やがて管と管が集合して大きな管となり、やがて大静脈を通って心臓に戻っていきます。心臓から出て抹消の細胞に血液を送り届ける管を動脈、細胞から回収された血液を心臓に送り届ける管を静脈と呼びます。 また、動脈、静脈とは別のルートで余分な水分を回収する管があります。これは、リンパ管と呼ばれる管です。リンパ管も末梢の細胞から余分な水分などを回収しやがては管と管が集合し、大きな管となり最終的には、静脈に合流して血液と混じります。

むくみとは、管に回収されずに細胞から染み出た余分な水が細胞や管の周りに過剰に溜まっている状態です。むくみの正体は、「余分な水」であると言えそうです。

3. 生理的なむくみの場合

むくみは、日常よく見られる症状でもあります。もちろん心配しなくてよい生理的な範囲のむくみもあります。特に女性の方に多いのが良性浮腫です。夕方頃に靴下の跡が残る、指で押さえると圧痕が残るといった症状です。ですが、一晩たつとむくみは消失しております。この場合は、あまり心配しなくてよい生理的な範囲でのむくみと言えます。塩分を摂り過ぎないように説明することで夕方の足のむくみも改善することが多いようです。また、流行のリンパマッサージも足に溜まった余分な水をリンパ管を通して血液の中に戻すことでむくみを改善させる方法になりうるようです。

4. 病的なむくみは、時に重篤化することがあります

しかし、病的なむくみの場合は話が別です。たかがむくみと放っておくと重篤な症状になる場合があります。むくみが強くなっていくと足だけでなく、顔や手、おなかの周り、腰回りなどの体幹部もむくみ始めます。
さらに、むくみが強くなると体の内部に水が溜まり始めます。足や手、顔などの体の表面がむくむだけでは、間に合わなくなった余分な水は、とうとう体の中の空洞に染み出し始めます。体の中の空洞には、「腔(くう)」という字がよく使われております。

むね(胸腔:きょうくう)に水が溜まる場合を胸水、おなか(腹腔:ふくくう)に水が溜まる場合を腹水、心臓(心外膜腔=心のう)に水が溜まる場合を心のう水と呼びます。胸水では、胸腔内に溜まった水が肺を圧迫するため、肺の空気が抜け始めます。ちょうど浮き輪が外から押し潰され空気が抜けていくような感じです。胸水で肺が押し潰されて空気が抜けた状態を圧排性無気肺と呼びます。そうなると肺でのガス交換がうまくいかなくなります。
また、心臓は、肺からのガス交換を通して全身に酸素を送り込んでいるポンプの役目をしておりますが、むくみが強くなると余分な水が邪魔をしてポンプがうまく回らなくなります。また、無気肺のために全身に送るべき酸素の量が不足しているため、心臓はさらに負担を強いられます。その上、心のう水も溜まり始めるとさらに心臓に負担がかかることになります。心臓に余裕がなくなり(心予備能の低下)、ポンプ機能が破たんしてしまった状態が「心不全」です。心不全といえば、命を落とすこともある重篤な疾患です。むくみも重篤になると命に係わる場合があるということです。

5. 医療機関を受診すべきむくみの見分け方

では、重篤になる可能性があるむくみをどう見分ければ良いのでしょうか? 残念ながら初期の段階では、判断が難しいと思われます。ですから翌日になっても改善しないむくみは、医療機関受診を検討しても良いと思います。 また、症状が無くとも、むくみとともに体重増加を短期間で認める場合、ちょっと動くと息切れがする、息がしんどいなどの症状がある場合、夜間に横になると息苦しくて眠れないなどの症状(心不全兆候)がある場合は、早めの受診をご検討ください。

内科医長 小野田哲也