急性虫垂炎について
急性虫垂炎(acute appendicitis:以下、虫垂炎)は、一生の間に1割弱の人が発症する可能性がある「身近な」疾患ですので、今回取り上げてみました。
虫垂炎は、我々の現場ではよく「アッペ」と呼んでいる病気です。俗に「モウチョウ」と呼ばれることがありますが、厳密には盲腸と虫垂は異なります。虫垂は盲腸の端から細長く飛び出したミミズのような管です。太さは4 ~5 mm、長さは5 ~ 10cm で、通常は右下腹部に位置します。虫垂が感染して化膿性炎症を起こした場合を、虫垂炎といいます。虫垂の根元に便の塊(糞石)や異物が詰まったり、リンパ濾胞が増生することで虫垂が閉塞し、感染が起こると、虫垂炎が発症すると考えられています。
症状は、胃やへその周りの痛みで、続いて吐き気、嘔吐などが起こります。徐々に痛みは右下腹部に移動し、限局してきます。虫垂が破れて腹膜炎になると、下腹部全体が痛くなります。虫垂の根元に糞石が詰まっているものは破れやすいです。右下腹部痛の原因は、虫垂炎以外にもいろいろとあります。他の消化管疾患(憩室炎、腸炎、回盲部癌、腸閉塞、腸のヘルニア)、尿管結石、婦人科的疾患(付属器炎、骨盤腹膜炎、卵巣腫瘍の捻転や破裂、卵巣出血、子宮外妊娠破裂)などです。
血液検査、超音波検査、腹部CT 検査などで診断を進めていきます。高齢者、小児、妊婦などでは、訴えが曖昧で、腹部所見が典型的でないことがあります。そのため発見が遅れ、虫垂が破れて膿がまわりに出てしまうことがあります。虫垂の根元に癌などの腫瘍が生じて、それが原因となって虫垂炎が起こる場合があります。この場合は癌に準じた治療をしなくてはなりません。CT などで、そのあたりも注意して診断が行われます。盲腸や虫垂が右側でなく、左側に位置する人もいます。虫垂炎が起こると左下腹部痛が生じるため、別の病気を疑ってしまう可能性があり、注意が必要です。
治療は、非常に軽い虫垂炎の場合は抗菌薬で治療しますが、改善のない場合や炎症が波及している場合は手術となります。手術の方法には、開腹手術と、腹腔鏡手術があります。開腹手術の場合には通常、下半身の麻酔(腰椎麻酔、硬膜外麻酔)が行われますが、状況によっては全身麻酔となります。腹腔鏡手術の場合は全身麻酔が行われます。
虫垂炎を重症化させないためには早期診断・早期治療が必要であるということは、言うまでもありません。
放射線診断科部長 安藤由智