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腎不全の治療選択について(平成27年10月号より)

腎臓の働きとは

腎臓は、背中の左右にあるソラマメ形をした、人の握りこぶし大の臓器です。腎臓の働きとしてよく知られているのは尿を作って体の外に老廃物を出すことですが、それ以外にも体調を整えるためにたくさんの仕事をしています。例えば、体の水分や電解質(ナトリウム、カリウムなど)のバランスを正常に保ったり、赤血球を作るためのホルモンを分泌して貧血を防いだり、血圧をコントロールしたり、といったところです。

腎不全とは

ところが、腎臓はさまざまな原因で正常に働かなくなることがあります。これを腎不全と言います。腎不全には大きく分けて急性腎不全と慢性腎不全があります。急性腎不全の原因としては腎臓に良くない薬の使用、脱水症、感染症、尿の通り道の閉塞など様々なものがありますが、治療によって腎機能が回復することもあります。一方、慢性腎不全では高血圧や糖尿病、腎炎などを原因として腎臓が少しずつダメージを受けて働かなくなってきます。食事制限をしたり血圧のコントロールをしたりする治療で腎臓が悪くなるのを遅らせることはできますが、長い時間をかけて悪くなってきた腎臓は小さく縮んでしまうことが多く、この場合は腎機能が改善する可能性は非常に低いです。

腎不全の症状

腎不全になると腎臓の仕事量が減ってしまい、老廃物を排泄できなくなって体に毒が溜まってきます。腎不全がかなり進行した時には尿毒症症状といって、溜まった毒の影響で気持ちが悪くなって吐いてしまったり、食事の味がわからなくなったり、頭がぼんやりしたり、といった症状が出ます。また、体に余分な水分が溜まり体がむくむこともあります。余分な水分が肺の周りに溜まると息が苦しくなることもあります。また、水分が多すぎると心臓にも負担がかかりますので心不全になることもあります。貧血になったり血圧が上がったりすることもあります。

腎不全の治療選択

一般的には、腎臓の働きが正常な人の10%程度まで低下してしまった時に、腎臓の代わりをする治療(腎代替療法)が必要となってくると言われています。治療法として血液透析、腹膜透析、腎移植の3つの選択肢があります。

血液透析について

血液透析は、末期腎不全で腎代替療法が必要となった人のうち90%以上の人が行っている治療法です。日本で血液透析をしている人は30万人を超えています。週に3回病院に通って1回3時間〜5時間程度の治療を行います。血液透析をするためには前もって透析用の血管を手術で作っておく必要があります。作っておいた血管に針を刺し、体の中から血液を引いてきて、ダイアライザーという筒を通して血液から老廃物などを取り除いた後、体に血液を返します。この時、余分な水分も取り除きます。腹膜透析に比べて短時間で余分な水分を取り除くため、治療中に血圧が下がりやすいなどの欠点はあります。また、台風が来ても雪が降っても透析は休めないので、通院が大変です。夕方から透析をしている病院もあるのですが、仕事をしている人にとっては夕方までに仕事を終わらせて決まった時間に透析に通うことで仕事内容が制限されてしまうという難点もあります。ただ、週に3回病院に通うので、体調が悪くなった時に病院スタッフがすぐに異常に気付くことができるという点や、透析を病院スタッフが行うので安心・安全であるという点は血液透析の利点であると考えられます(自宅に透析の機械を設置して本人や家族が自宅で血液透析を行うことも、まれにあります)。

腹膜透析について

腹膜透析は、末期腎不全で腎代替療法が必要となった人のうち5%程度の人が行っている治療法です。自宅や職場などで行える透析で、本人や家族が行うことが多いです。腹膜透析では、おなかの中の腹膜という膜を使って透析を行います。手術をしておなかに透析のための管(カテーテル)を入れておき、点滴の袋のようなものをその管につないで透析液を一定時間おなかの中にためておきます。時間が経ったら老廃物や余分な水分が透析液側に移動するので、透析液をおなかから出してきます。腹膜透析には日中、手動で3〜4回透析液を交換して透析する方法と、寝ている間に機械を使って自動で透析を行う方法があります。体調が安定していれば病院に通院するのは1ヵ月に1回程度で良いので、血液透析のように頻繁に病院に通う必要が無い分、生活リズムを制限されることが少ないという利点があります。仕事が忙しく血液透析に通えない人や、病院が遠くて通院しにくい人などが腹膜透析の治療を選択することが多い傾向があります。また、血液透析に比べて長い時間をかけて透析を行うので、急に血圧が下がったりすることも少なく体に優しい治療法であるといわれています。ただ、透析の操作をする際に清潔操作がきちんとできていないとばい菌が入ってしまって腹膜炎を起こすことも稀ではないです。腹膜炎を起こすと命に関わることもあります。また、腹膜透析を長期間続けていると、腹膜がくっついてしまうことにより腸管が動かなくなって腸閉塞になってしまうこともあるため、一定期間(一般的には7〜8年)腹膜透析を行った後は、治療法を血液透析へ変更する必要があります。

腎移植について

腎移植は、働かなくなった腎臓の代わりに他の人からもらった腎臓を手術でくっつける治療法です。くっつけた腎臓は正常な腎臓の60〜80%程度の働きをすると言われています。親子や兄弟、夫婦など身内の人から腎臓をもらう場合(生体腎移植)と、脳死または心停止した人から腎臓をもらう場合(献腎移植)があります。献腎移植の場合は腎臓をもらう順番を待つのに何年もかかることが多いです。移植した腎臓が拒絶反応を起こすとうまくくっつかないので、移植した後は定期的に病院に通院し、免疫抑制剤という薬を飲み続ける必要があります。日本では腎臓の提供者が少ないため腎移植をする人は欧米に比べるとかなり少ないですが、1980年代以降、治療法の進歩により腎移植の治療成績が劇的に良くなってきているため腎移植をする人も少しずつ増えてきています。

どの治療法にも良い点と悪い点があり、治療を受ける人の体の状態や生活スタイルなどによってベストな選択肢は異なります。腎臓が悪く、将来透析が必要になるかもしれないと言われた場合は、主治医の先生やご家族と相談して、どの治療法を選ぶのか早いうちから考えておきましょう。

内科医長 原納育子