消化器内視鏡検査について~ピロリ菌と胃カメラ検査~(平成27年4月号より)
「あなたの胃にはピロリ菌が感染しているようです。ピロリ菌の検査と除菌治療をおすすめします。」
胃カメラの検査の後にこのような説明を受けられた方、いらっしゃるのではないでしょうか。
今回は、ピロリ菌と胃カメラ検査(消化器内視鏡検査)について解説します。
「ピロリ菌」、最近はご存じの方も多いようです。ピロリ菌、「菌」の文字が付くとおり、「細菌類」に属する病原体です。正式名称は「ヘリコパクター・ピロリ」といいます。
ピロリ菌は、ほとんどの方で幼少期(通常5歳まで)に感染します。若い年代ほど、ピロリ菌を保有する方は少なくなってきています。
ピロリ菌は悪い菌?
ピロリ菌は、いろいろな病気を引き起こす有害な菌です。ピロリ菌は胃がん、消化性潰瘍(胃潰瘍、十二指腸潰瘍)、萎縮性胃炎(いわゆる慢性胃炎)、胃MALTリンパ腫など多くの消化管疾患の原因となります。
消化管疾患以外にも、特発性血小板減少性紫斑病(免疫異常により血小板が減り、出血しやすくなる疾患)などの原因になることも知られています。
冒頭に述べた「ピロリ菌が感染しているような胃」は「ピロリ菌が感染していない胃」と胃粘膜の状態が非常に異なります。胃カメラ検査の際にピロリ菌の有無の推測ができることもあります。2枚の写真を比べてみて下さい。
(写真1)ピロリ菌の感染している胃・胃粘膜は薄くなり、表面はざらざらした感じです。(写真2)ピロリ菌の感染していない胃・胃粘膜は光沢があり、なめらかな印象です。
ピロリ菌を除菌するメリットは?
現在健康保険でピロリ菌除菌治療が行えるのは、下記の疾患です。( )内は除菌により期待される治療効果です。
・消化性潰瘍(潰瘍の治癒促進および再発を減らす効果)
・へリコパクター・ピロリ感染胃炎(胃炎所見の改善)
・早期胃癌に対する内視鏡的治療後、胃におけるヘリコパクター
・ピロリ感染症(新たな胃がんの発生を減らす効果)
・胃MALTリンパ腫(腫瘍の縮小、寛解)
・特発性血小板減少性紫斑病(血小板数の回復)
ピロリ菌を見つける方法
ピロリ菌の治療に先立って、ピロリ菌の感染を確認する必要があります。現在一般的に行われているのは、下記に記した6種類の検査方法です。
・抗へリコパクター・ピロリ抗体(血液または尿で検査します)
・便中ピロリ抗原(大便で検査します)
・迅速ウレアーゼ試験(胃カメラの際に胃粘膜組織を採取し検査します)
・尿素呼気試験(検査用尿素製剤を内服し、内服前後の呼気を採取し検査します)
・培養法(胃カメラの際に胃粘膜組織を採取し、ピロリ菌が生えるか調べる検査です)
・鏡検法(胃カメラの際に胃粘膜組織を採取し、顕微鏡でピロリ菌の有無を観察する検査です
過去6か月以内に胃カメラの検査をしていない方は、胃カメラ検査も受けるようにしてください。消化性潰瘍や胃がんが見つかった場合は、その治療が優先されます。
ピロリ菌を除菌する方法
ピロリ菌が確認できた場合は、内服薬による除菌治療を行います。抗菌薬(菌を殺す薬)2種類と、プロトンポンプ阻害薬(胃酸の働きを抑える薬)の計3種類の薬を1週間内服します。
最初に行われる治療は「1次除菌」です。アモキシシリン、クラリスロマイシン、プロトンポンプ阻害薬を用います。1次除菌で除菌がうまくいくのは70~80%の患者さんです。除菌成功が確認できればこれで治療は終了です。
残りの20~30%の患者さん、除菌がうまくいかなかった方は「2次除菌」が必要となります。2次除菌では、1次除菌で用いられた3種消化器内科特集類の薬剤のうち、クラリスロマイシンをメトロニダゾールに変更し、1週間の内服治療を行います。2次除菌まで行うと、95%程度の患者さんで除菌が成功します。
除菌治療の際に注意すべきこと
普段から飲んでいる薬がある方は、除菌治療の前に必ず主治医に相談してください。一部の薬剤では、薬剤相互作用(飲み合わせ)の影響により、除菌効果が低下したり、常用薬の効果に影響し、体に悪影響を及ぼすことがあります。また、除菌治療の際には、禁酒、禁煙もぜひ心がけてください。
また、過去に薬剤アレルギーの既往がある方も、除菌治療前に必ず医師に知らせてください。
ピロリ菌を除菌したあとは?
先に述べたとおり、1回の治療で除菌が成功しない患者さんも少なくないため、除菌治療の後は、除菌判定の検査を必ず受けてください。除菌判定の際は、便中ピロリ抗原または尿素呼気試験を用いることが多いです。除菌治療後の内視鏡検査は必ずしも必要というわけではありませんので、ご安心ください。
一度除菌治療に成功すると、通常再感染はほとんどないといわれています。
除菌治療後の胃がん検言参の重要性
ピロリ除菌治療後も、定期的な胃検診(可能であれば、内視鏡検査)を受けることが非常に重要です。
胃がんに罹患する方のほとんどにピロリ菌感染があるといわれています。ピロリ除菌治療を行うことで、種々の胃疾患のリスクは減ることが証明されていますが、除菌後も胃がん発病のリスクはゼロにはなりません。ぜひ定期的な胃検診は継続してください。
内科医長 薦田みのり