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小児の気管支喘息(平成24年7月号より)

初めに

『喘息の気(け)がある』という言葉を聞いたことがありますか?この言葉は、=(イコール)喘息を意味しているものではありません。聴診をしたときにヒューヒュー、ゼーゼー(連続性肺雑音)という音が聞こえるということだけなのです。連続性肺雑音が聴取される疾患はいくつもあり、喘息はその中の一つにすぎません。では、真の気管支喘息とはどんな病気なのでしょうか。

気管支喘息とは

2012年小児気管支喘息治療・管理ガイドラインに記載されている定義は、『喘息は、発作性に起こる気道狭窄によって、喘鳴(ゼロゼロ)や呼気延長(息を吐く時間が長くなる)、呼吸困難を繰り返す疾患である。基本病態は気道の慢性アレルギー炎症で、炎症が持続することで気道過敏性(気道が様々なものに反応し易くなる状態)が生じ、誘発・悪化因子も作用して、気道平滑筋(気管支壁内の筋肉)の収縮や気道粘膜の浮腫、気道分泌物(痰など)の亢進などによる気道狭窄が起こる』とあります。

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発症するとどうなるの?

小児の喘息の約60%が2歳までに発症し、4歳頃には80~90%が発症します。その後思春期までに70%の患者が寛解・治癒し、残りの30%が成人に移行します。ただし、寛解・治癒した人の中にも成人になって再発する人が20%程度いるため、結局、小児期発症の喘息患者の約50%が成人でも発症している換算となります。

男女比は、乳幼児では男児のほうが1.5倍ほど多く、年齢が上がり思春期頃には同数となります。他のアレルギー疾患の合併率は、特に同じ気道疾患であるアレルギー性鼻炎が高く、喘息患者の約半数が併発しています。

何に気を付けなければいけないの?

母親の妊娠中及び出生後の家庭環境内でのタバコの煙からの回避が強く推奨されています。タバコの煙は、胎児期~生後早期の赤ちゃんの気道の脆弱性(もろく、傷つきやすい)を引き起こし、出生後では気道過敏性の亢進や換気機能の低下をもたらします。

感作後の喘息発症予防や発症後の重症・難治化の予防には、室内塵ダ二を含めた吸入アレルゲン(塵ダ二、動物の毛・ふけ、カビなど)や非特異的因子(タバコの煙、その他の大気汚染)の暴露からの回避が推奨されています。その他の大気汚染は、花火や線香、蚊取り線香、焚き火、自動車の排ガス、さらに化粧品、香水、ヘアスプレー、接着剤、防虫剤、生花などの臭気などです。

環境整備としては、寝具、カーテン、ソファ、絨毯などの小まめな掃除、洗濯、天日干しなどが必要とされます。

また小児の場合、呼吸器感染症も大きな誘因の一つとなります。ライノウイルスやRSウイルス、インフルエンザウイルスなどのウイルス性感染症やマイコプラズマ菌、クラミジア菌などの細菌感染症などで、呼吸器感染症時の急性増悪は特に注意が必要です。

その他には気象の変化、特に重要なのは急激な気温の変化で、前日と比較して3°C以上低下した日や過去5時間以内に3°C以上気温が低下した場合に発作が起こりやすいです。

運動は、短時間の喘息発作を引き起こす増悪因子の一つであり、冷たく乾燥した空気を過剰に吸入することにより、気管支収縮が生じます。心因性としては『笑う、泣く、怒る、恐れる』といった激しい感情表現が、換気の亢進や低炭酸ガス血症を生じ、気道狭窄を引き起こします。

どうやったら治るの?

最終的には寛解・治癒を目指すのですが、気管支喘息は慢性的な気道の炎症疾患なので、早急に症状をコントロールして、良好な呼吸及状態を維持し、気道の不可逆的な変化(半永久的な気道狭窄)が起こらないようにしないといけません。

現在の治療は、長期管理のための薬物療法と発作時の対処療法の二本柱で行います。発作時の対症療法には家庭内と医療機関での対応があり、家庭では、発作を重篤化させない、遷延化させないよう早期からの気管支拡張剤の吸入、内服、貼付剤で対応します。医療機関では、換気状態を把握しつつ、発作強度や合併症、他疾患の鑑別も含めて対応します。

長期管理としては、気道炎症を抑制する薬が主となり、吸入ステロイドが第一選択薬となります。小児の場合、ステロイドの副作用(成長障害、免疫能低下など)が足かせとなっていましたが、吸入ステロイドは局所(喘息では気管支粘膜のこと)への抗炎症作用が強く、肝臓での代謝も非常に速い(全身性のステロイド投与では代謝に時間がかかるが、吸入ステロイドは肝臓を1回通過すると9割以上が代謝される)ので、近年では積極的に使用されるようになっています。

当面の日常の治療の目標は以下のとおりです。

(1)症状のコントロールに努める

①昼夜を通じて症状がない。

②発作時吸入の回数が減少、または必要ない。

(2)呼吸機能の正常化

①呼吸機能検査をほぼ正常に安定化させる。

②気道過敏性を改善させ、運動や冷気などによって症状が誘発されないようする。

(3)生活の質を改善させる

①スポーツも含めた日常生活が普通に行うことができる。

②治療に伴う副作用が見られない。

最後に

どのアレルギー疾患にも言えることですが、良好な症状コントロールの維持が、将来の、アレルギー疾患(喘息、鼻炎、花粉症など)による症状のない良質な生活へと導いてくれるので、自ら治ったと判断せず、かかりつけ医と相談しながら、症状の起こらない必要最小限の治療を継続していくことをお奨めします。

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小児科医長 横山泰三