甲状腺乳頭癌
中国中央病院からの健康アドバイス 第50回
Q人間ドックの頸動脈エコーで、偶然甲状腺腫瘤を指摘されました。注射針で甲状腺腫瘤から細胞をとり、甲状腺乳頭癌と診断されましたが甲状腺乳頭癌とはどのような癌なのでしょうか。手術としては、首の部分から甲状腺を切除することになるそうですが、痛み、声のかすれ、飲み込みにくさなどが術後に出てこないか心配です。(60歳・女性)
A甲状腺乳頭癌は甲状腺の悪性腫瘍の90%以上を占めています。顕微鏡で癌細胞を観察すると、乳頭状構造を主体としているため「乳頭癌」という名がついています。
乳頭癌の発育は緩徐であり、手術後の予後(病状の見通し)はほとんどの症例で良好なのですが、年齢が予後を規定する因子ですので、高齢者では予後不良になることがあります。乳頭癌は首のリンパ節への転移が多いのですが、肺や骨等への遠隔転移は頻度が低いとされています。甲状腺が気管を取り巻くように存在しているため、乳頭癌は気管、食道、反回神経(声帯を動かす神経)に浸潤(甲状腺内部に発生した癌は甲状腺内で徐々に大きくなり、甲状腺の被膜を突き破って周囲臓器にまで広がること)することがあります。
手術は甲状腺切除術(葉切除術あるいは全摘術)+リンパ節郭清が基本となりますが、腫瘍が気管、食道などの周囲臓器へ浸潤している進行癌症例では、甲状腺全摘術と周囲臓器の合併切除を行う場合があります。乳頭癌の手術療法後の入院期間は、甲状腺葉切除術(甲状腺の1/2切除)では5日間、甲状腺全摘術では7日間で、退院翌日から仕事は可能です。
手術においては、反回神経・副甲状腺の取扱いに注意しているので、術後に嗄声(反回神経の損傷に伴う声のかすれ)、テタニー(副甲状腺の血流障害による一過性の副甲状腺機能障害で引き起こされる筋肉のけいれん)はほとんどありません。患者さんの中には、声が出にくい・嚥下しにくい・しめつけられる・首がひきつる・肩がこるなどの症状を感じられる方もおられます。首はお腹や胸に比べて感覚が鋭敏なためにこのような違和感を生じることがあります。だいたい術後1週間目の退院の頃に症状が現れ、2〜3ヵ月は続くこともあります。本質的には感覚的な問題で、病気自体の性質や手術のよしあしとは関係のない症状です。
なるべく早くから首のストレッチやマッサージなどを始めて普段の生活をしながら気にしないように努めていくことが症状を1日も早く軽快させる方法だと考えます。
一般外科・内分泌外科部長 和久利彦