がんの痛みの治療(平成22年5月号より)
「がん」の痛み
あなたやご家族が命を脅かす「がん」になったら、すぐさま手術、抗がん剤、放射線等の治療を始めてほしいですよね。また痛みがあれば同時に取り除いてほしいですよね。「がん」は耐えられない痛みや苦痛をもたらすことがあります。早期がんでは1/3、進行がんでは2/3以上の患者さんが痛みを感じています。がんの痛みのほとんどが一日中続く持続性の痛みです。がんの激しい痛みを我慢するのは猛烈なストレスを伴い、急激に体力と免疫力を失った上、がん治療を続ける気力を失います。ですから、がんそのものの治療と並行して、早期からがんの痛みを治療する必要があります。
痛みの上手な伝え方
痛みの感覚は主観的なものであり、個人差があります。本人にしか分からないし、本人が「痛い」と言えば痛いのです。つまり我々は患者さんからの訴えがなければ、どんな痛みを感じているかわからないのです。
上手な伝え方を考えて見ましょう。
1)いつから?
・「何月何日ごろ」とか「2週間前」とかです。
2)どこが?
・「右わき腹」とか「背中のこのあたり」とかで具体的に示せるといいですが、「おなか全体」とかでも構いません。
3)どんなときに痛みが強くなり、どんなときに痛みが楽になりますか?
・「じっと横になっていると楽だが、座ると痛い」とか「暖かくすると楽」とかです。
4)どのように痛いですか?
「うずくように」、「剌すように」、「チクチク」、「ズキズキ」とか、ご自分の言葉で教えてください。
5)痛みの強さはどのくらいですか?
・痛みの程度を表す「フェイス・スケール」を使います。痛みの程度を数値化したものです。
図:痛みの評価スケール(Wong-Bakerによるフェイス・スケール)
6)痛みの影響はありますか?
・「眠れない」、「食欲がない」、「不安な気持ちになる」とかです。
患者さんが自分の痛みを訴えることで、痛みの治療を始められるのです。
「がん」の病みとモルヒネ(麻薬)
がんの痛みはWHOの規則に従い、段階的に治療します。しかし強い痛みには多くの場合、モルヒネなどの医療用麻薬が必要になります。モルヒネは非常に有効でかつ安全です。しかも吐き気や便秘以外に強い副作用がありません。
投与量に制限もありません。麻薬を長期間使用するとしばしば中毒を起こす。麻薬は患者さんの生存期間に悪影響を与えるといった話を聞きますが、まったくの誤解です。副作用を抑える薬や補助の薬を合わせて内服することにより、痛みを感じず快適な時間を過ごすことも可能です。
「がん」の痛みと緩和ケア
患者さんやご家族の生活の質(QOL)を支えるのが緩和ケアです。現在痛みの治療は「がん」と診断が付いたと同時に開始すべきです。しかし日本人の患者さんは奥ゆかしく控えめですから、耐えて我慢することを美徳と考えるところがあります。
勇気を持って、声に出して訴えましょう。患者さんには痛みを訴え、その痛みを緩和してもらう権利があります。
当院には緩和ケアの研修を受けた医師や看護師、薬剤師等で構成する「緩和ケアチーム」があります。胸のネームプレートに付いているオレンジバルーンが目印です。何でもご相談ください。「がん」の痛みを決してあきらめないでください。
緩和ケアチーム・歯科口腔外科部長 宇根秀則