労作性狭心症
中国中央病院からの健康アドバイス 第40回
数ヶ月前から、駅の階段を急ぎ足で登ると数分間持続する前胸部の不快感を自覚。悪化する様子もなかったので放置していたのですが、妻に勧められて近医を受診しました。その際、医師に「狭心症の疑いがあるので心臓カテーテル検査をしましょう」と言われました。受けた方が良いのでしょうか?
労作性狭心症とは心臓を栄養する血管(冠動脈)が動脈硬化等の器質的狭窄によって一過性の虚血状態となる疾患です。
動脈硬化の原因としては高脂血症、高血圧、糖尿病、喫煙、肥満などの生活習慣関連疾患が挙げられ、わが国で増加傾向にあり、しかも個人に多因子が集積する傾向を認めます。冠動脈疾患による死亡率は現在横ばいですが、将来的に増加が懸念されており、メタボリックシンドロームを含めた危険因子全てへの強力な介入による予防対策が重要と考えられています。
症状としては労作時の前胸部圧迫感や左肩への放散痛、呼吸困難、嘔吐、眩暈などがあります。また、これらの症状は安静にて数分で消失するという特徴を持っています。
しかし、一番の特徴は、多くの症例で胸部症状の出現している最中でなければ心電図や心エコーなどの検査に異常所見として現れないということです。つまり、胸部症状が昨日ありましたと病院を受診しても、受診時に胸部症状がなければ、検査に引っかからないということになります。この特徴が、労作性狭心症の診断を困難にしている原因なのです。
そこで医師は慎重に病歴を聴取し(1胸痛がいつから出現し始めたか 2どの程度の労作で症状が出現するか 3症状の持続時間と頻度 4咽頭部、頸部、肩、腕への放散痛の有無 5増悪傾向の有無)しかるべき検査を施行し診断しなければなりません。その一つに心臓カテーテル検査がありますが、この検査は最終手段と言っても過言ではないものでしょう。
そこで入院を必要とせず、外来診療にて労作性狭心症を診断できる検査をその利点、欠点を含めて説明しましょう。
① 24時間ホルター心電図/文字通り24時間心電図をつけたままにして胸痛時の心電図変化を調べる検査です。しかし、胸痛の頻度が低いと診断には数回要してしまうことになります。
② 運動負荷心電図、心エコー/階段を上り下りしたり、自転車を漕ぎながら心電図変化を調べたり、心エコーを用いて心筋の動きの変化(主に低下)から狭心症を診断する検査です。最も一般的に外来診療の場で施行できる簡単な検査ですが、高齢者や脚力の低下した患者様には転倒などの危険が伴い困難な場合があります。また心エコーも検査施行者の熟練が必要であり、どの循環器内科医にも可能というわけではありません。
③ 薬物負荷心エコー/上記のような運動負荷が困難な場合に、血圧や脈拍数を上昇させるような薬物を使用することによって診断する検査がありますが、同様に検査医の熟練度が重要です。
④ 運動、薬物負荷心筋シンチグラフィー/放射性同位元素を用いて心筋の血流不足の領域を検出する検査であり、心臓カテーテル検査に次ぐ診断精度の高い検査ですが、検査の時間が長いこと、高価な検査であることや放射線被曝してしまうなどの欠点があります。
その他にも、様々な検査法が検査機器の発達、医学の進歩により新しく開発されてきておりますが、現在、臨床の場で行われているものとしては上記のものが主であると考えます。いったい、自分にはどの検査法が適しているのか、本当にすぐに侵襲的な検査が必要なのかを受診した医師と相談し、決定することをお勧めします。
内科医長 中野 学