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肺がん治療における当院での現状(平成29年春号より)

肺がんは治りにくい病気でありいまだ十分な成績を得られているとは言い難く、今後更なる診断・治療の進歩が必要と考えられます。ここでは当院での肺がん治療の現状をおもに外科医の立場から紹介したいと思います。

平成23年3月に当院赴任となり早いもので6年になります。その間に行った呼吸器外科手術件数も650件を超えました。当院の呼吸器外科手術の特徴は原発性肺がんに対して完全胸腔鏡下に手術を行っていることであり(写真1)、現在までに肺葉切除、区域切除、片肺全摘出等の根治的切除(比較的簡便であるが根治性はやや劣るとされる部分切除)が350例を超えており広島県でもトップ・レベルの施行数と思います。
外科手術スタッフに関してですが、昨年4月より岡山大学呼吸器外科より肺移植チームのメンバーであった平野医師が赴任となり、手術日には岡山大学より非常勤ですが呼吸器外科医の派遣も得られる様になったこともありより充実してきております。手術手技DVD作成の依頼や手術見学希望を受けることもあり(写真2)、これも当院の手術レベルが評価されてきた結果と考えております。
手術は手術室で全身麻酔下に行います。病院の理解もあり最新の機器(写真3、他施設呼吸器外科医からうらやましがられることも多いです)の導入・更新が適宜なされており、手術室スタッフの積極的な取り組みもあり新しい機器の導入にともなう手技の変更にも適切に対応してもらっていると感じます。また呼吸器外科麻酔は技術の差が出やすい麻酔と感じますが、当院ではすべての麻酔が熟練した麻酔下医師により行われていることもあり(今までの自分のキャリアの中では最もレベルが高いと感じています)、術中安心して手術に集中できる環境となっております。
呼吸器内科の診療レベル(診断・治療)に関しては外科医の立場からみても頼もしいと感じることも多く、質・量ともに広島県東部でNo1と言えるものと思います。呼吸器内科の活動に関しては、今までの青い空でも紹介されていますが今後情報提供の機会があると思います。
完全胸腔鏡下肺がん手術の中で最も低侵襲で高度な技術が必要とされるのが完全胸腔鏡下肺区域切除・亜区域切除です。そのような縮小手術には術前に十分な解剖学的情報が必要となります(いわゆる経験にまかせた準備ではまかなえないことが多い)。そのために必要な放射線科医師および技師のレベルも高く、特別な指示がなくても(写真4=表紙)の様な検査が行われております。この様な精度の高い検査を行うためにはCTおよび画像解析ソフトを最新のものを導入することが必要なことはもちろんですが、撮影条件の最適化や画像作成者のレベルの高さが必要となります(写真5)。担当者間の十分な情報交換、多くのディスカッションを行ってきたことの成果と思いますが、大病院ではない中規模病院である当院のいわゆる風通しの良さも良い結果を得られている原因と思います(このような当院の状況を研究会等でプレゼンテーションした際には他施設呼吸器外科医から高い評価を受けることが多いです)。
術前呼吸機能検査を含めた生理検査に関しては、前述したような肺がん手術のバリエーションの増加、患者さんの高齢化もあり手術手技のブラッツシュ・アップだけでなく手術適応・手術方法の選択を的確におこなう必要があります。現在日本呼吸器外科学会から心肺機能からみた術前リスク評価のためのガイドラインが示されています(右上図)。呼吸機能検査に関しては、肺活量・1秒量等の一般的なものだけでなく肺拡散能を含むより精密な検査が必要とされています。現状ではまだ特別な患者さんを除いては他施設では一般的には行われていないようですが、当院では手術予定の全ての患者さんに対して行っています。

リハビリに関しては本誌の別稿に詳しく記載されていますが、呼吸器手術前後のリハビリに精通した専属スタッフが担当してくれております。術前評価で呼吸機能が低く術後回復が思うように進まないと予想された患者さんをリハビリ・スタッフに救ってもらったと感じたことも多く頼りにしております。口腔ケアを適切に行うことは呼吸器手術後の経過を改善することはエビデンスとして認められてきております。当院の口腔外科は非常に充実したものであり、患者さんが希望されない場合を除いては周術期口腔ケアを行っており非常に良い評価が得られています。

周術期の管理は集中治療室→一般病棟→退院まで同一スタッフによる管理となっており、呼吸器内科医師・循環器科内科医師・糖尿病内科医師・病棟駐在薬剤師・リハビリ・地域連携との連携も十分とれており充実したものとなってきていると思います。

以上の様に呼吸器外科診療に関する当院の診療環境は日々充実してきているものと思います。呼吸器外科診療の中で肺がん治療は大きな比重を占めますが、集学的治療がなにより重要と考えられます。呼吸器診療部門だけでなく病院全体が呼吸器疾患診療に取り組めることが当院の強みと思います。今後もより地域のみなさまに貢献できたらと思います。

 

呼吸器外科部長 鷲尾 一浩