1型糖尿病とカーボカウント(平成29年夏号より)
皆さんは1型糖尿病と聞くと、どのようなイメージをお持ちでしょうか? 「1日に何回もインスリン注射をする病気」、「血糖値がなかなか安定しない病気」など様々なイメージをお持ちと思います。
糖尿病患者さんの大多数は「2型糖尿病」の方になります。2型糖尿病の患者さんは、自分のすい臓から出るインスリンの分泌が家系的に弱く、そこに不適切な生活習慣(過食、肥満、運動不足など)が重なることで糖尿病が発症します。ですので、治療の中心は、食事療法、運動療法が基本となります。その上で適切な薬剤をご提案することが糖尿病内科医のお仕事となります。
一方、1型糖尿病というのは、自分のすい臓からインスリンが出なくなる病気です。ですので、治療はインスリンの頻回注射(4〜5回)が基本となります。自分のすい臓から出るインスリンが「少ないながらも出ている」のと「全く出ていない」のは大きな違いで、日々の血糖値の安定性に大きく影響します。
このように、1型糖尿病と2型糖尿病は、同じ糖尿病と言えども、成因も病態も全く異なります。全く違うこの2つの病態に対して、同じ治療アプローチが長年取られてきました。1型糖尿病の患者さんに対しても、2型糖尿病患者さんと同様の指導を行ってきました。それゆえ、1型糖尿病患者さんの治療がうまくいかず、血糖値が乱高下し、良い血糖管理が出来ていない人が多い状況でした。
すい臓からでるインスリンは、基礎分泌(常に24時間中少しずつ分泌)と食後の追加分泌(食事摂取に伴い必要な分だけ急速に分泌)の2成分に分かれます。
1型糖尿病の患者さんは、この2成分両方とものインスリンを自分のすい臓から出すことができません。そのため治療は、この2成分のインスリンを注射製剤で補います。持効型溶解インスリン(約24時間じわじわ効くインスリン)を1日1回注射し、超速効型インスリン(注射後3時間程度かけて急速に効果を発揮するインスリン)を食事の際に注射することによって、本来であれば自分のすい臓が出すであろうインスリンを、注射製剤で模倣します。
これまでは1型糖尿病患者さんに対して、この超速効型インスリンを固定単位数で指導してきました。そうすると患者さんは、固定したインスリン単位数にあった食事を毎回しなければなりません。元気なときも、体調が悪くて食欲がないときも、どんなときでも同じ食事をしなければなりません。でも、日常生活の中で毎日同じように食事するなんて無理ですよね。当然、そんなことは出来ませんので、血糖値が乱高下する訳です。
そこで、近年普及してきた「カーボカウント」という概念があります。食事中の炭水化物が食後の血糖値上昇に強く関与することに着目し、食事中の炭水化物量を計算することで血糖値を調整しようという考え方です。たんぱく質や脂質にも血糖上昇作用はありますが、食後の血糖上昇には炭水化物ほど影響を及ぼしません。
食前の追加インスリンは、食事中の炭水化物を処理するためのインスリンと、食前血糖値を補正するためのインスリンを合計した量を計算します。
例) 炭水化物/インスリン比 10g/単位で、インスリン効果値 50mg/dl/単位の患者さん。食前血糖値:200mg/dlで、目標血糖値は100mg/dl。これから食事(炭水化物:60g)をする場合、必要な追加インスリンはいくらになるでしょうか?
解答:炭水化物を処理するためのインスリンは、60÷10=6で、6単位
血糖値を補正するためのインスリンは、(200−100)÷50=2で、2単位
したがって必要な追加インスリンは、6単位+2単位=8単位となる。
「なんだか、めんどくさいな。」というのが正直なところでしょうか。現在、初回発症の1型糖尿病患者さんにはすべてこの方法で指導しております。慣れるまで少し時間はかかりますが、年代に関わらず、ほぼ全ての患者さんが2週間の入院中にマスターして退院されます。そして、3ヶ月も経つと、私よりうまく調整できるようになっています。
カーボカウントの考え方が日本に入ってきたのは約10年前ですので、それ以前に1型糖尿病を発症された方は、聞かれたことのない概念かもしれません。そのような方にも当科では改めて指導致しますので、興味のある患者さんは是非ご相談下さい。
なお、カーボカウントは、最適なインスリン単位数を決定するための道具であり、血糖上昇を抑えるために炭水化物制限を行うことを推奨している訳ではありません。バランスの良い食生活は、糖尿病のあるなしに関わらず、重要なことです。
◎参考文献
1) 日本糖尿病学会,編.カーボカウントの手引き.第1版.文光堂,2017.
2) 川村 智行,編集責任.糖尿病のあなたへ かんたんカーボカウント〜豊かな食生活のために〜.改訂版.医薬ジャーナル社,2016.
糖尿病・腎臓病内科医長 天田 雅文