中国中央病院呼吸器外科

呼吸器内科、放射線科、リハビリテーション科との連携を保ちながら、術前から術後までより包括的な診療を行うように心がけています。

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呼吸器外科のご紹介

 当院呼吸器外科では、肺がんを中心に、他臓器がんからの肺転移、胸腺腫・胸腺がん、悪性胸膜中皮腫などの悪性腫瘍、良性腫瘍、気胸、膿胸、多汗症、胸部外傷など、胸部の外科治療を広く手掛けています。
 現在は、呼吸器外科専門医2名を含む3名体制で診療に当たっていますので、専門性の高い治療を安心してお受けいただくことができます。
 当科では、呼吸器外科領域の最先端技術を積極的に取り入れ、以下に紹介している取り組みを行っており、肺がんの根治性を保ちつつも、患者さんの負担軽減に努めています。肺がんに限らず、大半の手術を胸腔鏡というカメラを使って小さな傷で行っています。
 当院は、専門性の高い呼吸器診療が提供可能な施設であると自負しています。多数の呼吸器内科医師が在籍しており、術前診断、気管支鏡を用いた処置、周術期の呼吸器トラブル、手術前後の抗がん剤治療においては密に連携しながら診療に当たっています。

 また、複数領域にまたがる医療スタッフと連携しチーム医療を行うことで、手術を安全に乗り切っていただき日常生活への復帰までをサポートします。医療関係者からのみでなく、患者さんからの直接のお問い合わせにも対応しております。
一般的な呼吸器疾患から多汗症などの特殊な疾患にも幅広く対応可能ですのでお気軽にご相談ください。

当院での肺がん診療体制

※各診療科・診療部の協力のもと総合的な診療行っています

医師紹介専門・資格

鷲尾 一浩(わしお かずひろ)
鷲尾 一浩(わしお かずひろ)副院長 医務局長
出身大学 高知医科大学(現 高知大学)
職歴 岡山大学腫瘍胸部外科・国立岡山医療センター
国立宇部医療センター・岡山労災病院等
H.Lee Moffit Cancer Center留学
資格 外科指導医・専門医・呼吸器外科専門医
がん治療認定医・CT肺癌検診認定医
岡山大学医学部医学科臨床教授
受賞歴 2007年日本内視鏡外科会
カール・ストルツ賞(会長賞)受賞
専門領域 呼吸器外科、一般胸部外科
扱う疾患 肺癌・気胸・縦隔腫瘍・多汗症等
荒木 恒太(あらき こうた)
荒木 恒太(あらき こうた)呼吸器外科医長
出身大学 岡山大学
職歴 兵庫県立淡路医療センター
広島市立広島市民病院
岡山大学病院
資格 外科専門医、呼吸器外科専門医、肺がんCT検診認定医師
専門領域 呼吸器外科、一般胸部外科
真鍋 建太(まなべ けんた)
真鍋 建太(まなべ けんた)呼吸器外科医員
出身大学 東京医科歯科大学
所属学会及び資格 日本外科学会、日本呼吸器外科学会、日本胸部外科学会、日本臨床外科学会
専門領域 呼吸器外科
医師からひとこと 患者さん一人ひとりに寄り添った医療を提供します。不安なこと、わからないことがあれば何でもご相談ください。

肺がんの手術アプローチについて

 肺がんの手術は、古くは肋骨の間を大きく切り開く開胸手術が行われていましたが、技術の進歩とともに小さな傷で手術が可能になってきました。小さい傷で行うことで見えにくくなるところを、胸腔鏡というカメラを使ってモニター画面を見ながら行い、直接目で見る操作と組み合わせて行う手術法は胸腔鏡補助下手術(Hybrid Video-Assisted Thoracoscopic Surgery: hybrid VATS)と言われます。

 近年では、胸腔鏡を使った手術の技術がさらに進歩し、直接目では見ずにモニター画面越しの操作だけで行う完全胸腔鏡手術(Complete VATS:以下、cVATS)を取り入れる施設が多くなっています。
 完全胸腔鏡手術(cVATS)は、切除した肺を取り出すために必要な3~4cmの傷と、手術操作のための道具を入れる小さな傷を合わせて計3~4個の創で行われるのが一般的です。
 当科では2013年頃からcVATSを導入し実績を積み重ねています。




 この技術をさらに発展させて、手術道具を操作するための傷を減らし、切除肺を取り出すために必要なひとつの傷のみで手術を行うことを単孔式胸腔鏡手術(uniportal VATS)と言います。
 ひとつの傷からカメラや手術道具を入れて行うため、手術操作の難易度が高く胸腔鏡手術について高度の経験と技術が必要とされ、現状では導入施設は少数に留まっています。
 当科はこれまでの豊富なcVATSの経験を生かしてuniportal VATSも導入しています。




 手術は傷が小さく傷の数が少ない方が体への負担が小さくなり、整容面でもメリットがあります。
 しかし、肺がんの手術の第一の目的はがんを安全にそして確実に取り切ることですので、小さな傷で手術を行うことにこだわるあまり、不正確であったり不十分な手術になってしまうことは避けなければなりません。

 当院では、肺がんの進行度や予測される手術の難易度によってこれらの手術アプローチのいずれが適切かを判断し、患者さんの要望も踏まえた上で手術アプローチを決定しています。


肺がんの場合の肺の切除範囲について

 肺を手術で切除する際には、どの程度の範囲の肺を取ってしまうかがひとつの問題になります。

 肺は呼吸のために必要で生命維持に欠かせない臓器です。肺を切除した場合、切除範囲が大きくなるほど術後の呼吸機能が低下することになります。基本的に、肺は再生する臓器ではありませんので、肺を極力温存しつつも肺がんを取り切るのに十分な切除範囲を考える必要があります。

 近年までは、肺がんの標準術式は肺葉切除とされていましたが、その後に行われた国内の臨床試験の結果を踏まえ、非常に早期の肺がんには肺部分切除、そこから少し進行した肺がんであっても早期に留まるものは肺区域切除が有用な術式と考えられるようになっています。
 特に、JCOG0802/WJOG0407Lという日本で行われた肺区域切除と肺葉切除を比較した大規模臨床試験の結果を受けて、これまでは肺葉切除が行われていた早期肺がんに対して今後は肺区域切除が行われる機会が増加することが予想されます。
 また、最近では高齢者の肺がんが増加していますが、肺区域切除であれば呼吸機能が悪い患者さんにも実施できる場合があります。


左右の肺葉

肺の区域


 当科は、これまでに早期肺がんに対しては積極的に肺区域切除を行ってきました。さらに、区域切除の中でもより細かい手術操作や解剖の理解が必要となる複雑区域切除や亜区域切除にも多数の経験を有していますので、それらを柔軟に組み合わせた手術が可能です。

 2021年度では、肺がん患者さんの44%に区域切除を行っており、様々な術式を実施しています。
 このような区域切除の技術は肺がんの手術だけでなく、肺転移や良性腫瘍の場合でも体に負担の少ない手術として生かすことができます。

区域切除の一例(右S2b+3a区域切除)


2021年度に肺がんに実施した区域切除の内訳


部分切除や区域切除の問題点と克服のための当科の取り組み

 部分切除や区域切除が適応となるような早期肺がんは、手術中に見つけるのが難しい場合があります。
そういった時には肺がんの位置がわかるように、手術前に肺がんの近くに印をつけておく方法がとられます。

 マーキングの方法としてよく行われているのは、CTを使いながら胸の体表から針を刺し金属ワイヤーを留置する方法です。簡便な方法ではありますが、0.1~2%程度の患者さんに空気塞栓(脳梗塞、心筋梗塞など)という重篤な合併症が起こると報告されており、早期肺がんの手術に伴うリスクとしては軽視できないものです。
 当科では、金属ワイヤーが脾動脈に迷入したという合併症も経験し論文で報告しています(誌上発表の2参照)。

 合併症リスクの少ないマーキング法として、手術前に気管支鏡というカメラを使って肺の内側から肺の表面に色素で印をつける方法(Virtual Assisted Lung Mapping: VAL-MAP)が開発され、当科も導入しています。
 VAL-MAPは金属ワイヤーの留置に伴うような重篤な合併症リスクが少ない方法であり、気管支鏡の技術は必要となりますが安全に実施することができます。

 当院では、当科と呼吸器内科が連携し実施しています。現在保険収載されている方法では、印となる色素はインジゴカルミンという紫色の色素となりますが、これは肺の色と色調が似ており手術中に印がわかりにくいことがあります。これを改良した方法として蛍光色素のインドシアニングリーン(ICG)を使用する方法が考案され、当科も臨床試験として実施しその安全性と有効性を報告しています(誌上発表の3参照)。



 ICG-VAL-MAPは、安全に実施可能なマーキング方法というだけでなく、一度の検査で複数箇所の肺表面に印をつけることができるという利点があります。
 このマーキング方法を部分切除に用いた場合には、目で見たり手で触ったりしてもわかりにくい腫瘍を印で囲むことによって単一のマーキングのみの場合よりも正確に腫瘍が切除できるようになります。

ICG-VAL-MAP

 区域切除に関して肺は複数の区域に分かれていますが、これは肺の表面から目で見てわかるようなきれいな境界があるわけではありません。
 肺の中は複雑に血管が入り組んで走行していますが、この血管の内の肺静脈という血管は区域の間を走行します。この肺静脈の走行を追いかけることで特定の区域を同定することが可能です。
 また、肺動脈や空気の通り道である気管支は特定の区域に流入しますのでその特性を利用し、前述のICGを血管内に投与して特定の区域を描出したり、気管支への空気の入り方の違いを利用したりして区域の同定が行われます。
 これらの方法には利点と欠点がありますが、安定し区域間を描出できる方法として日本ではICGを静脈投与する方法を利用する施設が増えている傾向にあり、当科も積極的に使用しています。

ICG静注法

 区域切除の際に切除すべき腫瘍が区域の近くにあることがあり、このような場合には近くの区域を部分的に一緒に切除したり、区域の内の亜区域というさらに細かい領域を一緒に切除したりすることが行われます。
 先に述べたICG-VAL-MAPは、このような時に非常に有効で、隣り合う区域のどこまでを切除すればよいかの目印を置くことができます。腫瘍と十分な距離をとって肺を切除することは、肺がんを完全に切除し再発を予防するという観点から区域切除において非常に重要です。通常の区域を同定する方法とICG-VAL-MAPを併用することで、切除する肺の領域がより明確になり十分な切除距離を保った区域切除が可能になります。
 当科では、ICG静注法とICG併用VAL-MAPを同時に行って区域切除を行うことの有用性を報告しています(誌上発表の1, 3, 4参照)

ICG-VAL-MAPを用いた右S2拡大区域切除の一例

 VAL-MAPを含め肺のマーキング法は、肺表面に近いところにマーキングをするものです。
 肺は立体臓器であるため、腫瘍が深い位置にあった場合にはこれら肺表面のマーキングは腫瘍の深さの目印にならず、腫瘍の中枢側と切除肺の断端が近くなってしまうのが問題となります。
 当科では、ICG-VAL-MAPを行う際にICGを気管支の壁に注射することでこれを腫瘍の中枢側のマーキングに用いる方法を考案し実施例を報告しています(誌上発表の5参照)。ICG-VAL-MAPとこの方法を組み合わせることで、部分切除や区域切除といった縮小手術の際に腫瘍の中枢側の切除距離をより確実に取ることができるようになると考えています。



 これらの低侵襲で精細な手術についての取り組みは、肺がんのみならずその他の腫瘍や良性疾患の場合にも応用した技術を用いて対応しています。

 当院は、市中の一般病院ではありますが、呼吸器外科・内科の専門性の高さを活かし、患者さんによりよい治療を提供するために様々な工夫を行っています。
 治療の方法については、従来法を含めて説明を聞いていただいた上で、患者さんにお選びいただいています。

手術件数と肺がん治療実績【令和5年度】

【当科の手術件数】
疾患 手術件数
良性腫瘍 3件
原発性悪性腫瘍手術
部分切除術 9件
区域切除術 27件
葉切除以上 29件
その他 1件
転移性腫瘍 2件
胸膜腫瘍 1件
縦隔腫瘍 1件
非腫瘍性良性疾患
気胸 16件
その他 18件
呼吸器外科手術総数 106件

手術件数と肺がんの治療成績

誌上・学会発表:一部抜粋

誌上発表

1. ICG併用VAL-MAPとICG静注区域間同定法を使用した胸腔鏡下拡大区域切除の1例
  肺癌59 4 378-383 2019
  平野豊 鳥越英次郎 鷲尾一浩 池田元洋 玄馬顕一 上岡博


2. Migration of a hookwire used as a video-assisted thoracoscopic surgery marker into the splenic artery
  Gen Thorac Cardiovasc Surg 68 194-8 2020
  Hidejiro Torigoe, Yutaka Hirano, Yoshitomo Ando, Kazuhiro Washio


3. ICG併用VAL-MAPとICG静注区域間同定法を用いた胸腔鏡下肺区域切除例の検討
  日呼外学誌 35 2-11 2021
  平野豊 荒木恒太 鳥越英次郎 松本千晶 八杉昌幸 池田元洋 尾形佳子 玄馬顕一 鷲尾一浩


4. 小型肺癌に対する胸腔鏡下右S6b+S8a+S9a複合亜区域切除
  胸部外科 74 343-346 2021
  平野豊 荒木恒太 鷲尾一浩


5. 小型肺癌の中枢側メルクマールとしてindocyanine greenの気管支壁局注が有用であった1例
  肺癌(掲載予定)
  荒木恒太 平野豊 林直宏 松本千晶 八杉昌幸 池田元洋 尾形佳子 玄馬健一 鷲尾一浩


学会発表

1. ICG-VAL-MAPとICG静注区域間同定法の併用が有効であったcVATS拡大区域切除例
  第36回 日本呼吸器外科学会総会 2019年5月
  平野豊、鳥越英次郎、鷲尾一浩


2. ICG併用VAL-MAPとICG静注区域間同定法を用いた胸腔鏡下肺区域切除例の検討
  第60回 日本肺癌学会学術集会 2019年12月
  平野豊 鳥越英次郎 鷲尾一浩


3. 不全分葉を伴う右S*肺癌に対して気管支先行処理による完全鏡視下右S6+S*区域切除を行った1例
  第37回 日本呼吸器外科学会学術集会 2020年9月 WEB
  平野豊 鳥越英次郎 鷲尾一浩


4. 胸腔鏡下肺区域切除における術中ナビゲーションーVAL-MAPはKey factorとなり得るか
  第37回 日本呼吸器外科学会学術集会 2020年9月 WEB
  鳥越英次郎 平野豊 鷲尾一浩


5. 早期肺癌に対する胸腔鏡下右S6b+c+S8a+S8b複合区域切除
  第61回 日本肺癌学会学術集会 2020年11月 岡山・WEB
  平野豊 荒木恒太 鷲尾一浩


6. 小型肺癌に対して胸腔鏡下右S8+S7a区域切除を施行した1例
  第37回 日本呼吸器外科学会学術集会 2021年5月 Web
  平野豊 荒木恒太 鷲尾一浩


7. 左S6の小型肺癌に対する胸腔鏡下左S6+S8a区域切除の1例
  第37回 日本呼吸器外科学会学術集会 2021年5月 Web
  平野豊 荒木恒太 鷲尾一浩


8. 胸腔鏡下肺区域切除術においてICG静注区域間同定法とICG併用VAL-MAPを併施することの利点
  第64回 関西胸部外科学会学術集会 2021年6月 倉敷
  荒木恒太 平野豊 鷲尾一浩


9. 小型肺癌の中枢側マーキングとしてICG気管支壁局注が有用であった1例
  第62回 日本肺癌学会学術集会 2021年11月 横浜
  荒木恒太 松本千晶 八杉昌幸 玄馬顕一 鷲尾一浩


10. 完全不全分葉を伴う肺癌手術においてICG併用VAL-MAPが有用であった舌区+S1+2c区域切除例
  第62回日本肺癌学会学術集会 2021年11月 横浜
  平野豊 岡田和大 荒木恒太 牧佑歩 藤原俊哉 鷲尾一浩 松浦求樹


11. 中枢側のメルクマールとしてICG気管支壁局注を施行した9例
  第39回 日本呼吸器外科学会総会 2022年5月 東京
  荒木恒太 林直宏 鷲尾一浩