あなたはバリウム派?カメラ派?
患者さんから「胃がん検診はバリウムと胃カメラのどちらにすべきなのか?」と訊ねられることがあります。特に胃カメラはしんどいと敬遠する方も多いだけに、患者さんから見ると悩ましい問題だと思います。
ちなみにこの「けんしん」と言う言葉には「健診」と「検診」と言う二つの文字が当てられますが、前者は職場の健康診断や人間ドックなど広く体の異常がないかどうかを調べるもの、後者はがん検診など特定の病気に狙いを絞ってその有無を調べるものと言う意味を持っています。その意味で言いますと、「胃のけんしんを受ける」と言えば胃がんを見つけることを目的にした後者の「検診」を指すと思われますが、「健診」においてもセットで胃がんを見つけることを目的にしたバリウムの検査が広く行われていますから、少しややこしいですね。
バリウムの検査と比べると、胃カメラは費用が高くしんどいといったデメリットもありますが、消化器がん検診学会の全国集計によるとバリウムでがんを見つけられる確率は胃カメラの四分の三程度だったとされています。医師の立場からすると少しでもがんの見落としを減らすためには胃カメラをおすすめしたいのですが、患者さんにとっては検査自体のしんどさが大きいことに加え医師にとっても検査の手間が大変で、現実的に胃がん検診を希望される方全員に胃カメラを行うことは難しいでしょう。
またバリウムで要精密検査とされた人であっても実際に胃がんであった人はわずか1%だったことを考えると、集団を対象に行う検診としては少しでもがんが見つかる確率が高そうな人をなるべく狙い撃ちにする工夫も必要です。
最近はペプシノゲン検査やピロリ菌検査などと組み合わせての胃がん検診も行われていますけれども、これらはピロリ菌感染によって慢性胃炎が進行し、やがて胃がんが生まれてくると言う考え方に基づいています。
慢性胃炎が進行してくると胃がんが出来やすくなるだけでなく、胃粘膜の変化によって胃がんが見つけにくい場合がありますから、ペプシノゲンやピロリの検査に引っかかった人であればバリウムよりも胃カメラを受けた方がいいでしょう。
逆に年齢の若い方で慢性胃炎など胃の異常がない方々であれば胃がんの確率はかなり低いはずですから、まずはバリウムの検査を受けてみて、精密検査に引っかかってからカメラを検討してみてもいいかも知れません。胃カメラのほうがいいのは判っている、それでもやはりカメラは苦しいから嫌だと言う方も少なくないのですが、薬を使って楽に検査を受けられるようにしたり、鼻からも入れられる細いカメラが使える場合もありますから、まずは「けんしん」を受ける施設と相談してみていただきたいと思います。
内科医長 藤原延清