胃がんの手術について(平成25年7月号より)
はじめに
胃がんは、かつて悪性疾患の中で最も死亡率の高い疾患でした。環境衛生の改善によるピロリ菌感染率の低下や早期発見・早期治療により胃がん死亡率は徐々に減少しているものの、2011年の推計で男性は肺がんに次いで2位、女性は大腸がん・肺がんに次いで3位といまだ上位にあります(図1)。一方、胃がんにかかる人は年間約11万人にのぼり、これはがん患者全体の約17%を占め最多です。胃がんは、今もなお日本人にとって最も身近で克服すべき疾患の一つと言えます。ここでは、いくつかある胃がん治療のなかで手術療法を中心に説明させていただきます。
治療法の選択
胃がんと診断された場合、がんの進行度により治療法が選択されます。治療の原則は手術であり、抗がん剤治療や放射線治療などは補助療法として行われます。胃壁の表層(粘膜)だけにとどまった早期のがんであれば内視鏡(胃カメラ)治療で完治することも可能ですが、粘膜よりも深層に及んだがんでは、周囲のリンパ節へ転移している可能性があるため外科的切除が必要となります。手術療法胃がんの手術には、「がんを含めた胃切除」・「胃の周りのリンパ節を摘出するリンパ節郭清」・「経口摂取を可能とするための消化管再建」の3つの過程があり、切除する範囲により縮小手術・定型手術・拡大手術に分類されます。
定型手術
定型手術とは、『2/3以上の胃切除とD2郭清と言われる一定範囲のリンパ節を摘出すること』と定義され、最も標準的な術式です。代表的な手術法に次の2種類があります。
①幽門側胃切除術(図2)
胃の出口(幽門)側2/3~3/4の胃とリンパ節を切除する方法です。残った胃と十二指腸を吻合するため、食物は手術前と同様に食道→胃→小腸へと流れます。
②胃全摘術(図3)
全ての胃とリンパ節を切除する方法です。食道と十二指腸は直接吻合することができないため、複雑な消化管再建が必要となります。術式は、がんの位置により決定します。つまり、がんが胃の出口(幽門)側にある場合は幽門側胃切除術が選択され、入口(噴門)近くにある場合に胃全摘術が選択されます。術後に胆石を合併しやすいため、通常は胆のうも一緒に切除します。
縮小手術
定型手術より胃の切除範囲やリンパ節郭清の範囲が狭い手術法のことです。腹腔鏡手術や噴門側胃切除術などがこれに当たり、リンパ節転移のない早期がんが対象となります。
拡大手術
定型手術に加えて胃の周辺の他臓器(膵臓、牌臓、大腸、肝臓など)を一緒に切除したり広範囲にわたりリンパ節郭清を行う方法で、通常は進行がんに対して行われるものです。
術後について
胃には食物を一時的に貯蔵し消化する働きがあります。したがって、胃を切除すると食物の貯蔵・消化能は低下します。残念ながら残った胃が大きくなったり、吻合した小腸が胃の代わりをすることはありません。徐々に体が順応するため通常は問題なく食事摂取が可能となりますが、胃切除を行ったことで新たに生じる症状や病態もあります。こうした注意点は、手術を受けられた患者様ご本人が理解されている必要があり、術後に栄養指導を行っています(次項参照)。
おわりに
胃がんの手術療法を中心にお話ししました。定型手術は、早期がんから進行がんまで大部分の胃がんを対象とした術式ですが、より早期に発見できれば腹腔鏡手術のような縮小手術、さらには内視鏡(胃カメラ)治療も選択できます。つまり、早期発見・早期治療こそが胃がんを低侵襲に克服する術であると考えます。胃カメラによる定期検言参、胃がん予防のピロり菌治療をお勧めします。
外科医長 藤本善三