あなたのその咳、大丈夫ですか?(平成23年3月号より)
呼吸器内科を受診される患者さまの症状として最も多いのが咳です。ちなみに咳のことを医学用語では咳欺(がいそう)と言いますが、その原因のほとんどは急性上気道炎、いわゆる「かぜ症候群」です。しかし、中には数力月も続くような長引く咳を訴えて受診される患者さまもおられます。今回はそんな「咳」について少しお話をさせていただきます。
そもそも咳とは?
咳は、空気の通り道である鼻や気管たけでなく、横隔膜、食道や胃などの消化管、さらには耳などに広く存在する咳受容体が刺激される事で起こります。そして、その性質によって、痰を伴う湿性(しつせい)咳嗽と、痰を伴わない乾性(かんせい)咳嗽とに分けられます。また、咳の持続期問によって、急性咳嗽(3週間以内)、遷延咳軟(3~8週間)、慢性咳嗽(8週間以上)に分類されます。
治療について
基本的には原因に対する治療が重要であり、むやみに咳止めを飲むべきではありません。特に湿性咳嗽は、気管内に生じた分泌物を外に出すための重要な生体防御機構であり、安易な咳止めの服用は要注意です。たたし、咳が続くことで体力が低下したり、日常生活に差し障るような場合は、咳止めを服用したほうが良いでしょう。それでは、原因別に治療方法をみていきましょう。
①急性咳嗽(3週間以内)
急性咳嗽の原因の多くは「上気道炎(かぜ症候群)」ですが、その8~9割がウイルス感染です。原因ウイルスは様々ですが、インフルエンザウイルスを除いては、有効な薬はありません。前述のとおり、痰を伴う場合には、咳止めはあまりお勧めできませんので、ゆっくり休むことが第一です。なお、3日以上高熱が続く場合や、膿のような鼻汁や疲が出る場合、扁桃腺が腫れているときなどは細菌感染が疑われますので、これらの場合は抗生物質の内服が有効です。
②遷延性咳嗽(3~8週間)
遷延性咳嗽の多くは、上気道炎後に咳が残る「感染後咳嗽」ですが、最近では「百日咳」も増えています。症状が強ければ、咳止めを服用してもらう事もありますが、自然軽快する事がほとんどです。しかし、肺癌や間質性肺炎、喘息などが隠れていることがありますので、長引く場合はレントゲンなどの検査をお動めします。
③慢性咳嗽(8週間以上)
慢性咳嗽の原因は「咳喘息」、「アトピー咳嗽」、「副鼻腔気管支症候群」、「逆流性食道炎」、「喫煙による慢性気管支炎」など樣々です。治療は原因により異なり、専門的な診断・治療が必要です。
・咳喘息
咳のみを症状とする喘息で、喘鳴(ヒューヒューいう音)や呼吸困難が無い点が、典型的な喘息とは異なります。気管支拡張剤が有効ですが、放置すると30%以上で典型的な喘息になりますので、吸入ステロイドによる長期的な治療が勧められます。
・アトピー咳嗽
アトピー素因のある方(アトピーにかかった事がある人や、家族にアトピーの患者さまがいる人)に合併する事が多く、抗アレルギ一薬が有効です。
・副鼻腔空気管支症候群
慢性の副鼻腔炎と気道感染症を合併する症候群で、膿性の痰を伴う事が多いです。マクロライド系抗生物質の長期内服や、去痰剤が有効です。
・逆流性食道炎
胃酸が食道に逆流し、食道の咳受容体を刺激する事で起こります。胃酸の分泌を抑えるプロトンポンプ阻害剤が有効です。
・喫煙による慢性気管支炎
痰を伴う湿性咳嗽であることが多く、禁煙が第一です。
このように、一口に「咳」といっても原因は樣々で、一見すると咳とは関係なさそうな薬が特効薬になる場合もあります。他にも薬の副作用で咳が続くような事もありますし、大きな病気が隠れている事もありますので、咳が続くようでしたら、お気軽に呼吸器内科を受診してくたさい。
最後に「咳エチケット」について少しだけ。「咳」の原因は色々ですが、一番多いのはウイルス感染による「かぜ症候群」です。多くのウイルスは「咳」や「くしゃみ」などによる「飛沫(ひまつ)感染」で広がりますので、感染予防のために以下の「咳エチケット」を心がけましょう。
①咳・くしゃみが出たら、他の人にうつさないためにマスクを着用しましょう。マスクをもっていない場合は、ティッシュなどで口と鼻を押さえ、他の人から顔をそむけて1m以上離れましょう。
②鼻汁・痰などを含んたティッシュはすぐにゴミ箱に捨てましょう。
③咳をしている人にマスクの着用をお願いしましょう。
内科医長 久保寿夫