ウンチをするとおしりから血が出ませんか?
中国中央病院からの健康アドバイス 第48回
肛門はわずか3cmほどの短い部位ですが、血が出る、痛い、イボが出る、かゆい、便がもれる、便が細い、便が出にくい、うみが出るなど様々な症状を引き起こします。肛門の病気は、一括りに痔と呼んでしまうことが多いですが、痔は大きく分けて痔核(いぼ痔)、痔ろう(あな痔)、裂肛(きれ痔)の3つのタイプがあり、一括りにするにはあまりにも病態、治療が異なるものの総称です。
成人の3人に1人は痔に悩んだことがあると言われているほど、非常に身近な病気です。身近な病気ですが、肛門疾患をしっかりと研修することは、消化器外科医といえども意外に困難なものなのです。総合病院の外科はがん診療が中心となり、肛門疾患の患者様がなかなか受診されず、診断・治療の機会が少ないことが原因と考えられます。
Qおしりから血が出る病気って痔のほかに何があるの?
Aおしりから血の出る病気としてはすぐに脱肛(痔核)を思いつかれる方が多いと思います。実際、多くが痔核や裂肛からの出血ですが、中には大腸癌からの出血のことがあります。大腸は約1.5~2mほどあり、肛門から近い15cmほどの直腸と残りの(口側の)結腸からなります。
大腸癌の死亡率が増加していることをご存知な方も多いでしょう。2003年には、がんで死亡した人のうち、女性では胃癌を抜いてトップになりました。国立がんセンターでは大腸癌は今後も増え続け、2015年には年間で20万人近くの人が大腸癌にかかり、罹患率では男女ともに全がん中のトップになると推測しています。ただ、大腸癌は治る可能性が高い(治癒率が高い)がんなので、かかる可能性が高い、見つけがいのある、治療しがいのあるがんと言えるのではないでしょうか。
診察時には指を肛門に入れて肛門と直腸に腫瘍やポリープを触れないか調べますが、指が届く範囲はせいぜい10cmほどでしょう。これより、奥の(口側の)がんやポリープは大腸内視鏡検査をしなければ、なかなか見つけることができません。指がほんの少し届かないところにガンがあって出血していることがあるのです。患者様自身が痔があるからと出血があっても痔からの出血だと思いこみ、長い間、座薬などで様子をみていたが、なかなかよくならず、ようやく受診され検査をしたら直腸癌であったなどは時々経験することです。
大腸癌の患者様の中には、「検便(便潜血検査)で異常はなかったんです」と言われる方がおられます。便潜血で異常がでるのは、進行大腸癌の約4分の3程度、早期癌では半分に満たないほどと言われています。本当に異常がないから大丈夫と安心できるでしょうか。一番確実な診断法は大腸内視鏡検査です。
Q血は出るけど、若いから、やっぱり痔でしょう!?
A20代の方はガンになるような年齢ではないから血が出ても大丈夫と思われる方が多いかもしれません。しかし、潰瘍性大腸炎という大腸粘膜に炎症(ただれ)や潰瘍ができる原因がはっきりわかっていない病気が1970年頃より急激に、そして年々増加しています。発症する年代は20代をピークに10代~30代の若年者が中心です。炎症は通常、肛門に近い直腸より始まり、その後、奥の結腸に炎症が拡がっていくと言われています。ほとんどの場合、血便や下痢で始まり、血便や下痢がおさまったり、悪くなったりします。症状が進むと膿や粘液が血に混じる粘血便になり、下腹部の痛みも起こるようになります。治療は内科的な薬物療法が基本となりますが、病状が重篤な場合などには炎症が起きている大腸を全部切除するような手術をしなければならないこともあります。やはり、ここでも診断は大腸内視鏡です。大腸内視鏡検査をしましょうとお勧めしても、「大腸の検査は、しんどいんでしょう」と返されることがあります。一般的に痛みを伴う検査として捉えられているようです。内視鏡を入れる時に腸管が伸ばされるためですが、内視鏡機器がよくなり、取り扱う技術(大腸内視鏡挿入法)も向上しており、以前と比べると苦痛もずっと少なくなっていると思います。それでも人によっては、苦痛を感じる場合があるのも確かですが、苦痛を和らげるため、当院では希望者には、検査時に軽い麻酔をして検査を行っています。ただ、しんどいと言われるもう一つの理由として検査のために約2リットルもある大量の下剤を飲むことをあげられる方が多いのも事実です。こちらの方は、如何ともし難く、私個人としても何かいい方法はないものかと思う次第です。
何はともあれ、おしりから血が出る時は、年齢を問わず、念のため大腸内視鏡検査を受けていただくことが大切であると思います。
外科医長 佐藤 直広